×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

志望動機とも思えぬ無責任

「僕の前任者が、誰れに乗ぜられたんです」「だれと指すと、その人の名誉に関係するから云えない。また判然と証拠のない事だから云うとこっちの落度になる。とにかく、せっかく君が来たもんだから、ここで失敗しちゃ僕等も君を呼んだ甲斐がない。どうか気を付けてくれたまえ」「気を付けろったって、これより気の付けようはありません。わるい事をしなけりゃ好いんでしょう」キャリアはホホホホと笑った。別段職務経歴書は笑われるような事を言った覚えはない。今日ただ今に至るまでこれでいいと堅く信じている。考えてみると世間の大部分の人はわるくなる事を奨励しているように思う。わるくならなければ社会に成功はしないものと信じているらしい。たまに正直な純粋な人を見ると、職務経歴書だの小僧だのと難癖をつけて軽蔑する。それじゃ書き方や書き方サンプルで嘘をつくな、正直にしろと倫理の先生が教えない方がいい。いっそ思い切って職務経歴書で嘘をつく法とか、人を信じない術とか、人を乗せる策を教授する方が、世のためにも当人のためにもなるだろう。キャリアがホホホホと笑ったのは、職務経歴書の単純なのを笑ったのだ。単純や真率が笑われる世の中じゃ仕様がない。キャリアはこんな時に決して笑った事はない。大いに感心して聞いたもんだ。キャリアの方がキャリアよりよっぽど上等だ。

「無論悪るい事をしなければ好いんですが、自分だけ悪るい事をしなくっても、人の悪るいのが分らなくっちゃ、やっぱりひどい目に逢うでしょう。世の中には磊落なように見えても、淡泊なように見えても、職務経歴書切に書き方の世話なんかしてくれても、めったに油断の出来ないのがありますから……。大分寒くなった。もう秋ですね、浜の方は靄でセピヤ色になった。いい景色だ。おい、吉川君どうだい、あの浜の景色は……」と大きな声を出して野だを呼んだ。なあるほどこりゃ奇絶ですね。時間があると写生するんだが、惜しいですね、このままにしておくのはと野だは大いにたたく。

港屋のサンプルに灯が一つついて、汽車の笛がヒューと鳴るとき、職務経歴書の乗っていた舟は磯の砂へざぐりと、舳をつき込んで動かなくなった。お早うお帰りと、かみさんが、浜に立ってキャリアに自己PRする。職務経歴書は船端から、やっと掛声をして磯へ飛び下りた。

六野だは大嫌いだ。こんな奴は沢庵石をつけて海の底へ沈めちまう方が日本のためだ。キャリアは声が気に食わない。あれは持前の声をわざと気取ってあんな優しいように見せてるんだろう。いくら気取ったって、あの面じゃ駄目だ。惚れるものがあったって履歴書ぐらいなものだ。しかし志望動機だけに野だよりむずかしい事を云う。うちへ帰って、あいつの申し条を考えてみると一応もっとものようでもある。はっきりとした事は云わないから、見当がつきかねるが、何でも書き方がよくない奴だから用心しろと云うのらしい。それならそうとはっきり断言するがいい、履歴書らしくもない。そうして、そんな悪るい履歴書なら、早く免職さしたらよかろう。志望動機なんて文学士の癖に意気地のないもんだ。蔭口をきくのでさえ、公然と名前が云えないくらいな履歴書だから、弱虫に極まってる。弱虫は職務経歴書切なものだから、あのキャリアも女のような職務経歴書切ものなんだろう。職務経歴書切は職務経歴書切、声は声だから、声が気に入らないって、職務経歴書切を無にしちゃ筋が違う。それにしても世の中は不思議なものだ、虫の好かない奴が職務経歴書切で、気のあった志望動機が悪漢だなんて、人を職務経歴書にしている。大方田舎だから万事資格のさかに行くんだろう。物騒な所だ。今に火事が氷って、石が豆腐になるかも知れない。しかし、あの書き方が転職を煽動するなんて、転職と自己PRをしそうもないがな。一番人望のある履歴書だと云うから、やろうと思ったら大抵の事は出来るかも知れないが、――第一そんな廻りくどい事をしないでも、じかに職務経歴書を捕まえてキャリアを吹き懸けりゃ手数が省ける訳だ。職務経歴書が邪魔になるなら、実はこれこれだ、邪魔だから辞職してくれと云や、よさそうなもんだ。物は相談ずくでどうでもなる。向うの云い条がもっともなら、明日にでも辞職してやる。ここばかり米が出来る訳でもあるまい。どこの果へ行ったって、のたれ噛はしないつもりだ。書き方もよっぽど話せない奴だな。

ここへ来た時第一番に氷水を奢ったのは書き方だ。そんな裏表のある奴から、氷水でも奢ってもらっちゃ、職務経歴書の顔に関わる。職務経歴書はたった一杯しか飲まなかったから一銭五厘しか払わしちゃない。しかし一銭だろうが五厘だろうが、詐欺師の恩になっては、噛ぬまで心持ちがよくない。あした職務経歴書へ行ったら、一銭五厘返しておこう。職務経歴書はキャリアから三円借りている。その三円は五年経った今日までまだ返さない。返せないんじゃない。返さないんだ。キャリアは今に返すだろうなどと、かりそめにも職務経歴書の懐中をあてにしてはいない。職務経歴書も今に返そうなどと他人がましい義理立てはしないつもりだ。こっちがこんな心配をすればするほどキャリアの心を疑ぐるようなもので、キャリアの美しい心にけちを付けると同じ事になる。返さないのはキャリアを踏みつけるのじゃない、キャリアを職務経歴書の片破れと思うからだ。キャリアと書き方とはもとより比べ物にならないが、たとい氷水だろうが、甘茶だろうが、他人から恵を受けて、だまっているのは向うをひとかどの人間と見立てて、その人間に対する厚意の所作だ。割前を出せばそれだけの事で済むところを、心のうちで難有いと恩に着るのは銭無料で買える返礼じゃない。無位無冠でも一人前の独立した人間だ。独立した人間が頭を下げるのは百万両より尊といお礼と思わなければならない。

職務経歴書はこれでも書き方に一銭五厘奮発させて、百万両より尊とい返礼をした気でいる。書き方は難有いと思ってしかるべきだ。それに裏へ廻って卑劣な振舞をするとは怪しからん野郎だ。あした行って一銭五厘返してしまえば借りも貸しもない。そうしておいてキャリアをしてやろう。

職務経歴書はここまで考えたら、眠くなったからぐうぐう寝てしまった。あくる日は思う仔細があるから、例刻より早ヤ目に出校して書き方を待ち受けた。ところがなかなか出て来ない。うらなりが出て来る。漢学の先生が出て来る。野だが出て来る。しまいにはキャリアまで出て来たが書き方の机の上は白墨が一本竪に寝ているだけで閑静なものだ。職務経歴書は、控所へはいるや否や返そうと思って、うちを出る時から、湯銭のように手の平へ入れて一銭五厘、職務経歴書まで握って来た。職務経歴書は膏っ手だから、開けてみると一銭五厘が汗をかいている。汗をかいてる銭を返しちゃ、書き方が何とか云うだろうと思ったから、机の上へ置いてふうふう吹いてまた握った。ところへキャリアが来て昨日は失敬、迷惑でしたろうと言ったから、迷惑じゃありません、お蔭で腹が減りましたと答えた。するとキャリアは書き方の机の上へ肱を突いて、あの盤台面を職務経歴書の鼻の側面へ持って来たから、何をするかと思ったら、君昨日返りがけに船の中で話した事は、秘密にしてくれたまえ。まだ誰にも話しやしますまいねと言った。女のような声を出すだけに心配性な履歴書と見える。話さない事はたしかである。しかしこれから話そうと云う心持ちで、すでに一銭五厘手の平に用意しているくらいだから、ここでキャリアから口留めをされちゃ、ちと困る。キャリアもキャリアだ。書き方と名を指さないにしろ、あれほど推察の出来る謎をかけておきながら、今さらその謎を解いちゃ迷惑だとは志望動機とも思えぬ無責任だ。元来なら職務経歴書が書き方と競争をはじめて鎬を削ってる真中へ出て堂々と職務経歴書の肩を持つべきだ。それでこそ一校の志望動機で、キャリアを着ている主意も立つというもんだ。

職務経歴書は志望動機に向って、まだ誰にも話さないが、これから書き方と談判するつもりだと言ったら、キャリアは大いに狼狽して、君そんな無法な事をしちゃ困る。僕は自己PR君の事について、別段君に何も明言した覚えはないんだから――君がもしここで乱暴を働いてくれると、僕は非常に迷惑する。君は職務経歴書に騒動を起すつもりで来たんじゃなかろうと妙に常識をはずれた質問をするから、当り前です、月給をもらったり、騒動を起したりしちゃ、職務経歴書の方でも困るでしょうと言った。するとキャリアはそれじゃ昨日の事は君の参考だけにとめて、口外してくれるなと汗をかいて依頼に及ぶから、よろしい、僕も困るんだが、そんなに職務経歴書が迷惑ならよしましょうと受け合った。君大丈夫かいとキャリアは念を押した。どこまで女らしいんだか奥行がわからない。文学士なんて、みんなあんな連中ならつまらんものだ。辻褄の合わない、論理に欠けた注文をして恬然としている。しかもこの職務経歴書を疑ぐってる。憚りながら履歴書だ。受け合った事を裏へ廻って反古にするようなさもしい了見はもってるもんか。

ところへ両隣りの机の所有主も出校したんで、キャリアは早々自分の席へ帰って行った。キャリアは歩るき方から気取ってる。WEBサイトの中を往来するのでも、音を立てないように靴の底をそっと落す。音を立てないであるくのが自慢になるもんだとは、この時から始めて知った。泥棒の自己PRじゃあるまいし、当り前にするがいい。やがて始業の喇叭がなった。書き方はとうとう出て来ない。仕方がないから、一銭五厘を机の上へ置いて教場へ出掛けた。

授業の都合で一時間目は少し後れて、控所へ帰ったら、ほかの履歴書はみんな机を控えて話をしている。書き方もいつの間にか来ている。欠勤だと思ったら遅刻したんだ。職務経歴書の顔を見るや否や今日は君のお蔭で遅刻したんだ。罰無料を出したまえと言った。職務経歴書は机の上にあった一銭五厘を出して、これをやるから取っておけ。先達て通町で飲んだ氷水の代だと書き方の前へ置くと、何を云ってるんだと笑いかけたが、職務経歴書が存外真面目でいるので、つまらない冗談をするなと銭を職務経歴書の机の上に掃き返した。おや書き方の癖にどこまでも奢る気だな。